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科学関連 2025/05/21

全固体電池関連メーカーを徹底比較!注目の企業まとめ

目次INDEX
次世代蓄電池技術として注目を集める全固体電池。
有機電解液を使わない構造から高い安全性を実現できる可能性があり、リチウムイオン電池に代わる革新技術として世界中の研究機関や企業が開発を加速させています。
特にここ数年は、一部メーカーが試験生産や量産化に向けたロードマップを公開するなど実用化に向けた取り組みが具体化しつつあります。
しかし、エネルギー密度や製造コストなど、技術的課題も依然として多く残されています。 本記事では、国内外の主要メーカーがどのような材料や構造で課題に挑んでいるのか、各社の技術戦略と市場の中でのポジションを見ていきます。
全固体電池の現在地と今後の実用化の可能性を考察していきましょう。

全固体電池とは?市場拡大が期待される背景

全固体電池とは?市場拡大が期待される背景

全固体電池とは?|リチウムイオン電池との違い

全固体電池は、従来のリチウムイオン電池に使用されていた液体電解質を固体材料に置き換えた次世代型の蓄電デバイスです。
この構造変更により、正極・負極・電解質の3層構成を維持しつつ、発火リスクを大幅に低減できるとされ、安全性の向上が期待されています。

電解質の種類により、「硫化物系」「酸化物系(セラミック)」「ポリマー系」に分類されます。
中でも硫化物系は高いイオン伝導性と大容量特性から、電気自動車向けへの応用が期待されていますが、取り扱いに注意が必要な毒性や可燃性の課題も指摘されています。
一方、酸化物系は比較的安定性が高く、一部小型電子機器向けに製品化も始まっています。

さらに、全固体電池は形状の自由度が高く、薄型や積層型などの設計が可能な点も特長です。
熱や外部環境に対する耐性もあり、幅広い分野での活用が見込まれています。

なぜ全固体電池が注目されているのか|注目の背景

全固体電池が注目を集める最大の理由は、従来のリチウムイオン電池が抱えていた安全性の課題を大幅に緩和できる点にあります。
電解質を液体から固体に置き換えることで、液漏れや発火リスクが大幅に低減され、より信頼性の高い電池システムが実現可能となります。

加えて、エネルギー密度の向上も大きな魅力です。
一部の研究では、全固体電池は従来型のリチウムイオン電池と比べて最大2倍以上のエネルギー密度が期待されるとされ、将来的には電気自動車の航続距離向上につながる可能性があります。

さらに、固体電解質の構造上、自由な形状設計が可能であることから、薄型化や小型化が容易になり、スペース効率の高いデバイス設計が可能です。

また、材料によっては充放電サイクルを繰り返しても劣化が少ないという特性も報告されており、長寿命な電池としての可能性も期待されています。

こうした特性を背景に、EVメーカーや電子機器メーカーでは、次世代電池としての全固体電池の研究開発が急速に進められています。
環境規制の強化とともに、EV市場の拡大がこの技術への期待を一層押し上げているのです。

また、放電が終われば使用できなくなる「一次電池」と違い、繰り返し使用できる「二次電池」の中の一つにカテゴライズされます。

【二次電池とは】種類や特徴・仕組み・寿命・一次電池との違い

今後のサステナブルを重視する世の中にとって、全固体電池が注目される理由でもあります。
特性 内容
高い安全性 液漏れや発火リスクの大幅低減
高エネルギー密度 理論的には従来比約2倍以上の可能性あり
形状の自由度 薄型化・小型化が容易で設計の柔軟性が高い
長寿命 材料によっては劣化が少ないとされる
急速充電 条件によっては可能、ただし材料・構造に依存

市場予測と成長ポテンシャル|2030年までの動き

全固体電池市場は2030年に向けて急速な拡大が見込まれています。
中でも自動車産業における実用化は注目されており、トヨタ自動車は2026年に次世代電気自動車への搭載を目標に、全固体電池の研究を進めています。
世界最大級の自動車メーカーが量産を開始すれば、その産業インパクトは計り知れません。

また、全固体電池の高寿命化が進めば、EVを家庭や都市の電源として活用するV2H(Vehicle to Home)やV2G(Vehicle to Grid)といった構想がより現実的になります。
これにより、次世代電池は単なる車載用電源を超え、電力インフラ革新の鍵を握る存在となり得ます。

さらに、発火しにくいという特性から、ドローンやeVTOL(空飛ぶ車)などの航空分野への応用にも注目が集まっています。
加えて、小型化・薄型化に適した酸化物系全固体電池は、IoT機器向けの実用化が既に進んでおり、ウェアラブル端末や医療センサーへの搭載が進んでいます。

こうした技術革新の根幹には、材料科学の進展があり、自動車メーカーや電池メーカーのみならず、化学・半導体・セラミックス企業も開発に参入。 全固体電池の発展には、学際的な研究アプローチが不可欠です。

注目の全固体電池メーカー・企業一覧【日本・世界】

注目の全固体電池メーカー・企業一覧【日本・世界】

日本の全固体電池メーカー|トヨタ・日立など

トヨタ自動車は全固体電池の実用化に向け、開発を本格化させています。2023年10月には、出光興産と、量産実現に向けた協業を発表しています。
この提携により、トヨタは安定した電解質供給体制を確保するとともに、高性能かつ安全性に優れた全固体電池の開発を加速させる構えです。

EV分野で出遅れを指摘されてきたトヨタにとって、全固体電池は挽回の鍵を握る技術です。
ハイブリッド車で業界を牽引してきた同社が、電動化戦略の中核に全固体電池を据える姿勢はますます鮮明になっています。

海外の注目企業|QuantumScape・Samsung SDI ほか

全固体電池の国際競争では、米国のQuantumScapeが最先端を走っています。
同社は主要出資社であるフォルクスワーゲンの支援を受け、全固体電池の開発に取り組んでいます。

韓国勢ではSamsung SDIが商業化を目指し、24年に入って世界の自動車大手にサンプル品の出荷も始めました。2027年から量産すると発表するとしています。

中国では寧徳時代新能源科技(CATL)が全固体電池試作品の試験生産を開始しており、2027年に量産を計画しています。

これら海外勢の共通点は、基礎研究から量産技術まで一貫した開発体制を構築し、大学研究機関との緊密な連携による材料科学の知見を積極的に活用している点です。
日本勢も対抗して研究開発を加速させています。

全固体電池向けの材料を提供する企業|材料・量産技術・用途別の強みなど

全固体電池の実用化に向け、材料分野の技術革新が鍵を握っています。
全固体電池において中心となるのは、固体電解質や正極・負極活物質といった基幹材料です。

国内では、株式会社オハラが酸化物系固体電解質「LICGC™」を提供し、高いリチウムイオン伝導性と大気中での安定性を兼ね備える点で注目されています。
また、三井金属鉱業は酸化物系電解質「A-SOLiD®」を開発し、セラミックス技術を活かした量産化技術にも取り組んでいます。
住友化学や太陽誘電も、硫化物系や酸化物系材料の改良を進め、用途に応じた材料性能の最適化を図っています。

海外では、NEI Corporation(米国)が多様な固体電解質材料を少量から販売しており、研究用途に適した柔軟な供給体制を整えています。

※NEI Corporationへの発注については国内企業(株式会社三ツワフロンテック)を通しても可能です。
米国NEI社 電池材料の販売始めました!特注対応します

Samsung SDIやLG Chemは、社内用途に向けて高度な硫化物系電解質の開発と実装を進めており、Solid Powerは外販可能な硫化物系材料の提供を発表しています。
さらにUmicoreやBASFといった化学大手も、正極・負極材料の分野で全固体電池への対応を進めています。

各社とも材料特性(伝導性・安定性)と量産性の両立を目指しており、EVからIoTデバイスまで用途に応じた材料選定が重要となっています。
全固体電池の普及には、こうした多様な材料メーカーの技術が不可欠です。

全固体電池関連の注目されている銘柄(企業)

全固体電池関連の注目されている銘柄(企業)

投資家に注目されている全固体電池銘柄とは

全固体電池の量産化をめぐる競争が、自動車業界を中心に激化しています。
ホンダは栃木県さくら市に約430億円を投資し、生産技術を検証する施設を建設中で、2025年1月の稼働を予定しています。同社は従来のリチウムイオン電池と比べて航続距離を伸ばしつつ、コストも削減できる全固体電池の量産化を目指しています。

トヨタ自動車は既に試作ラインを稼働させており、2027年をめどにEVへの搭載を視野に入れています。日産自動車も2024年にパイロット生産ラインを初公開しており、2028年度の実用化を計画中です。

海外でも競争は加速しており、中国の上海自動車(SAIC)も2026年の量産化を目指して開発を進めていると報じられ、韓国や欧米のメーカーも研究開発に巨額の投資を行っています。

全固体電池は、走行距離の大幅延長、充電時間の短縮、安全性の向上といった特性を備えており、次世代EV市場における鍵技術として投資家からも強い関心を集めています。

株式市場で注目の日本企業|上場企業の一例紹介

日本市場では、複数の上場企業が全固体電池開発で注目を集めています。
TDKは小型全固体電池の製造技術に強みを持ち、IoTセンサー向けの超小型電池で市場シェアを拡大中です。

三井金属鉱業は、高いイオン電導性を持つアルジロダイト型硫化物固体電解質『A-SOLiD®』の開発を通じて、全固体電池向け材料の技術的優位性を確立しています。

住友化学は、国立大学法人京都大学、国立大学法人鳥取大学と共同開発した柔軟性のある新素材により、圧力を加えずに高容量の固体型電池を安定作動させることに成功しました。

カナデビア株式会社(旧 日立造船)は、全固体リチウムイオン電池の研究開発に取り組んでおり、今後の幅広い展開が期待されています。

各社とも2025年から2030年にかけての市場拡大を見据え、量産技術の確立とコスト削減に注力しており、自動車用途以外にもIoT機器や医療機器など多様な分野での活用が期待されています。

全固体電池がもたらす新しい市場|ポータブル電源・スマホ用途にも注目

全固体電池がもたらす新しい市場|ポータブル電源・スマホ用途にも注目

ポータブル電源向け全固体電池|高エネルギー密度のメリット

全固体電池は、ポータブル電源市場に革新をもたらす可能性を秘めています。
従来のリチウムイオン電池に比べて、理論上高いエネルギー密度を目指せることから、同じサイズでより多くの電力を蓄えられるという特長があります。
これにより、ポータブル電源の小型軽量化と長時間駆動の両立が可能になります。 また、液体電解質を使用しないため液漏れや発火のリスクが低く、安全性が非常に高いことも大きな魅力です。
アウトドアや災害対策など、過酷な環境下でも安心して使用できる電源として注目されています。

全固体電池の小型・高性能な特性は、従来の限界を超えた携帯性と信頼性を備えたポータブル電源の実現に貢献し、キャンプ、アウトドア、非常用電源など、幅広いシーンでの活用が期待されています。

スマートフォンへの応用は可能か?|小型化と安全性に注目

全固体電池は、スマートフォンの次世代電源として大きな可能性を秘めた革新技術です。
液体電解質を使用せずすべて固体材料で構成されるため、液漏れや発火といったリスクが大幅に軽減され、常時携帯するスマートフォンにとって極めて重要な安全性の向上が期待されます。

また、全固体電池は小型・薄型化が容易であり、たとえばマクセルは、小型の全固体電池の開発を進めており、ウェアラブルデバイスなどへの応用が期待されています。

現在はIoTやウェアラブル分野への応用が中心ですが、将来的にはスマートフォンのバッテリー持続時間という永遠の課題を解決する技術として期待されています。

他にも広がる活用例|EV・ウェアラブルデバイスなど

全固体電池は電気自動車(EV)分野にとどまらず、多様な用途への応用が期待されている次世代電源技術です。

特にウェアラブルデバイスにおいては、小型化・軽量化と高い安全性が評価されており、心拍計や血糖値モニターといった医療用途においても、長寿命かつ安定動作する電源として理想的な特性を備えています。

研究・インフラ分野でも注目が高まっており、全固体電池はIoTセンサーネットワークの電源として、環境モニタリングや構造物健全性監視などの長期間・メンテナンスフリー運用に対応できると見られています。
さらに、航空・宇宙用途では、極端な温度変化や真空・放射線など過酷な環境でも動作する可能性があるため、JAXAなどが研究開発を進めています。

なかでも将来的な応用が期待される分野が、体内埋め込み型医療機器です。
ペースメーカーのような生命維持装置には、高い安全性とサイクル寿命が不可欠であり、全固体電池の発火リスクの低さと長期安定性は大きな利点とされています。

実用化にはまだ技術的・規制的な課題がありますが、次世代医療デバイス向けの有望候補として研究が進められています。

全固体電池市場の成長に期待|今後の展望とリスク

全固体電池市場の成長に期待|今後の展望とリスク

実用化はいつ?量産化に向けたハードルとは

全固体電池の実用化時期については、各社が公表している技術開発ロードマップによると、2025年から2030年にかけて段階的に商業化が進むと見込まれています。
特に乗用車分野では、トヨタ自動車が2027年〜2028年の実用化を目指すと発表しており、産業界のマイルストーンとされています。

ただし、量産化に向けてはいくつかの技術的・コスト的なハードルが残されています。
最も重要な課題の一つは、固体電解質と電極との界面抵抗の低減です。
この界面の電気的・機械的特性が出力性能や寿命に直結するため、コーティング技術や新しい界面構造の研究開発が活発化しています。
また製造プロセスにおいても、均一な厚さと密度を持つ固体電解質シートを大量生産する技術は未確立であり、EV搭載を見据えた大面積・多層構造の実現には課題が山積しています。

コスト面でも、現時点ではリチウムイオン電池よりコストがかかるとされており、商業化には材料の低コスト化と製造歩留まりの改善が不可欠です。 特に高価な硫化物系・酸化物系電解質の代替開発や、焼成・成膜プロセスの簡素化が求められています。

これらの課題解決に向けては、大学や研究機関、企業間の連携が進んでおり、AIを活用したマテリアルインフォマティクスによる材料探索や、界面工学の進展によって技術革新が加速しています。
全固体電池の実用化には、材料・製造・システム設計の三位一体の進化が求められています。

技術課題とコスト面の壁|「実用化できない理由」に迫る

全固体電池の実用化が進まない最大の要因の一つは、材料特性に起因するイオン伝導と低温性能の課題です。
固体電解質は、液体電解質と比べてリチウムイオンの移動速度が遅くなる傾向があり、特に酸化物系材料では-20℃以下で性能が著しく低下する事例が報告されています。

ただし、硫化物系の一部材料では液体並みの伝導度を実現しており、材料選定が鍵となります。

また、充放電サイクルを繰り返す中で、電極と電解質の界面に微小な隙間や剥離が発生し、接触抵抗が増加することが性能劣化の要因となっています。界面の安定化は出力・寿命の両面で重要です。

製造コストについても、全固体電池は現行のリチウムイオン電池に比べて上回るとされ、高純度の固体電解質材料の合成プロセスの複雑さや、スケーラブルな製造技術の未確立が障壁となっています。

こうした課題の克服には、新規材料の開発に加え、界面接合技術の向上や複合材料設計、工程の最適化が不可欠です。大学や研究機関と企業の連携により、ナノ界面制御やマテリアルインフォマティクスを活用した革新的技術の導入が期待されています。

普及へのカギは?政策支援とサプライチェーンの整備

全固体電池の普及には、技術革新だけでなく国家レベルの政策支援と産業基盤の強化が不可欠です。
日本では2023年、経済産業省主導で「蓄電池の国際競争力強化に向けた研究会」が発足し、全固体電池を含む次世代電池の技術開発やサプライチェーン強化、国際標準化に向けた戦略が検討されています。
また、NEDOやグリーンイノベーション基金による大型補助金制度も整備され、企業による研究開発やパイロット生産が活発化しています。

一方、中国や欧州でも政策支援が進行中で、国際競争はますます激化しています。特に欧州では、電池規制(Battery Regulation)などの環境法制と一体となった支援政策が整備されており、実用化に向けた制度的な後押しが強まっています。

また、全固体電池には従来と異なる素材・製造プロセスが必要であり、高純度な固体電解質や専用封止材、成膜装置などを含む新たなサプライチェーンの構築が重要です。この点において、日本は素材開発力と産学官連携に強みを持ち、エコシステム全体の整備が着実に進んでいます。
最終的には、国際標準化への参画と、国家戦略としての長期支援が、全固体電池のグローバル普及と産業主導権確保の鍵となるでしょう。

まとめ

いかがでしたか? 全固体電池は、安全性・エネルギー密度・小型化といった利点を備え、EVやIoT、医療機器など幅広い分野での実用化が期待されています。一方で、界面抵抗や製造コストといった課題の克服には、材料開発や製造技術、政策支援など多方面からのアプローチが不可欠です。今後の動向を追うことで、技術革新の最前線に立つ企業や市場の変化が見えてくるでしょう。ぜひ引き続き注目してみてください。